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英国院と日本の大学院の違い

僕は京都大学で計算機科学の学士号を取得したあと、エディンバラ大学(University of Edinburgh)の大学院でMSc of Artificial Intelligenceという修士号を取得するためにスコットランドに留学した。何故エディンバラ?と思うかもしれないが、エディンバラ大学はコンピュータサイエンスに関しては世界ランキング20位(2015年, ちなみに東大は21位、京大は70位くらい)[1]と、かなりトップ層に食い込んでいる。
Deep Learningブームの発端となったHinton教授もPhDの取得はエディンバラ大学だし、かの有名な「パターン認識と機械学習」(通称PRML。黄色いやつ)の著者であるC.M.Bishopもエディンバラ大で教授をしている(PhDもエディンバラ)し、ベイズ統計の生みの親トーマス・ベイズもエディンバラ大学出身だ。意外なところで人工知能とゆかりが深い。

 

日本と英国の基本的な違い

日本(京都大学) 英国(University of Edinburgh)
年数 2年 1年
授業料(年間) 53万5800円[2] 27400GBP (約400〜500万円)[3]
授業時間 90分 50分
1日のコマ数 5コマ 9コマ
1つの科目の講義回数/週 基本1回 2回〜4回
授業形態 基本座学 週1回の座学
+週1+回のラボ
研究形態 週1のプレゼン
+たまにMTG
週1のMTGのみ
論文 2年を通して修論 前期のResearch Review
+ 後期のResearch Proposal
+ 夏休みで修論

 

日本の大学院と英国の大学院の違いを上の表にまとめてみた。飽くまで京都大学とエディンバラ大学の違いにはなるが、基本的なシステムは大学ごとに余り変わらないはず。
行く前はイギリスの先生の方が説明の仕方が上手い人が多いのではないか、と思っていたが授業のわかりやすさ自体はそんなに変わらない。
どちらの場合も授業をするのは研究をしている教授なので、教えることのスペシャリストではない。でも、たまにいる「授業が超わかりやすい人」の比率はエディンバラの方が多かった気がする。外国語なのに何故かすっと頭に入ってくる感じ。これは一般論ではないかもしれないが。

英国院の圧倒的な優位性は、全体的に授業(というか教育そのもの)が実用を目指してデザインされている点だ。(実用することがそんなに偉いかどうかという議論はさておき)週1〜2コマある座学とは別に殆どの授業で週1でLabといって、実際に授業で学んだ技術を作って何かを実装するという課題がある。課題は与えられ、チュートリアルをこなす感じでわからないことがあればTAに質問できる(たとえば自然言語処理の授業では、小説の著者判定アルゴリズムを作ったり)。座学の方も応用まで意識されて作られている資料がほとんどで、日本のときに感じた「で、これどうやって使えばいいんだ」という疑問を抱えることは少なかった。

日本の方が優れている点は、研究に集中できる点だろう。エディンバラ大では週1で同じ分野の研究をしている人たちのグループミーティングがあったが、日本のように特定の研究室に属して作業するというのは博士過程以上で、修士ではグループミーティングにとどまった。日本の院では授業よりも研究に時間を使うため、修論以外の場でも学会に出したりする機会があるが、英国院ではそれどころではなく、修論を書くのでもやっとだった。

もう1点挙げるとすれば、情報分野においては、京大の学生の方が総じてエディンバラの学生よりも優秀だったと感じた。おおよそ主観的だが、イギリスでは 機械工学からメジャーを変えて情報に来た、というような人も多く、「いままでプログラミングしたことありません!」という人すらいた。数学のレベルも、大学卒業時では中国を除いて他の国よりも日本はわりとすすんでいるように感じた。イギリスではオックスフォード大学とケンブリッジ大学がトップ1・2で、その後にエディンバラ, Imperial  Collage of London, University Collage of London あたりが続く形[1]なので、日本で言えば早稲田慶応のようなポジションなので、英国と日本の比較にはなっていないが。なんというか、優秀な人はもちろんいるのだが、いろんなレベル・年齢・国籍の人がいるせいで全体の分散が日本より大きくなっているだけかもしれない。卒論書いてすぐDeepMindに引き抜かれた奴もいたし、優秀なやつはとことん優秀だった。

 

英国院のサポート力

英国院のスタンスは簡単にいえば「お前たちにこれから地獄を見せる。だがこちらは全力でサポートする。」というものだ。
例えば、期末の試験は過酷だが、過去問は全教科漏れ無く公式で5年ぶんくらい発表され、試験前は授業とは別に過去問のフォローアップセッションも開かれる授業も多い。(日本の大学―京大は過去問は非公式で、先輩や研究室のネットワークからもらうしかなく、ちょっと不公平さが残る)
そしてエディンバラ大学のInformaticsでは、授業でわからなかったことや、テストの過去問や課題でわからなかったことを聞けるオンラインフォーラム(QAサイト)が全授業にあり、これがとんでもなく有り難かった。
例えばある自然言語と深層学習に関する授業で「Skipgramにおいてword vector と context vectorが何か未だによくわかりません」という生徒のたった1〜2行の質問に対する返答がこれだ。凄まじく丁寧でわかりやすい。

スクリーンショット 2016-05-25 23.54.18基本このフォーラムはTAが質問に答えているが、たまに教授も答えてくれる。この答えは教授が直接答えてくれたものだ。
僕も他の授業も合わせて20回くらいは質問を投稿したが、返信率は100%だった。TAもよく働いてくれていて、とにかく返信率とスピードが凄まじい。独学で必ずぶちあたる「100回読んだけど理解できない」という壁をいとも簡単に砕いてくれる。

また、驚いたのがコースワークに対するレビューの細かさだ。だいたいの授業で半期に2回成績評価されるコースワーク(課題)があるのだが、TAがスコアをきっちりつけて返してくれる。スコアは全授業でつけられ、オンラインでチェックできるが、中には一問一問レビューをしてくれる授業もある(全体の三分の一くらい)。

スクリーンショット 2016-05-26 12.42.18これはトピックモデルを使った類義語提示プログラムを作る課題での僕の答案(黒字)に対するレビュー(青字)の一部だ。満点でなければその理由がちゃんと書いてあるので、じっくり復習できる。あくまで学部時代だが、日本の授業ではここまでしっかりレビューしてくれる授業はほとんどなかったし、点数が提示されるの授業もすべてではなかった。

 

どれくらい大変か?

実際のエディンバラ大学のAIセクションのコース内容は次の記事に書く予定だが、仕事量を一言で言えば日本の2年の修士プログラムを1年間に圧縮したような量だ。課題の内容も結構レベルが高く、他の専攻から変更してきた生徒やプログラミング初めて、という生徒がいる中でガンガン課題を与えてくる(ただサポートがしっかりしているのでそういう人でもやる気さえあればやっていける)。
脅迫まがいのメールが届くくらいだ。この画像は僕がとったある授業のオリエンテーションの一週間前に、教授から登録者全員に届いたメールものだ。スクリーンショット 2016-05-26 12.18.26
要約は「この授業を取った生徒のうち毎年20〜45%(去年は30%だった)の生徒は落第しているので、数学 と機械学習関係に自信のない人は取ることをお薦めしません。 … ◯◯というコースを除けば他のコースよりはパスするのに格段に努力を要します。とにかく 自分のキャパをわかった上で取ってください。」というものだ。僕のフラットメートはこの講義に登録していたが、このメールを受け取ってこの講義を取るのを 辞めたという。実際にこの授業では課題(チュートリアル)は毎週ある上、この授業の半期に1回のレポートは2週間でとても終わる量と難易度ではなく、毎日4時間くらいはこのレポートだけに費やした。

なお、この大変さはおそらく計算機科学特有のもので、英国といえど他の学科すべてにもいえるわけではないと考えられる。
僕のまわりの人達(TESOLや経済学・音響学・デザインインフォマティクス・歴史/文学 専攻の院生たち)は総じて期末テストは1〜2教科で、中には二学期が週休4日とかいう人もいたが、何故かInformaticsの人たちは試験はだいたい6〜8教科、授業は週5きっかりで常に課題を2〜3個並走させていて、クリスマスもニューイヤーもCNNを用いた手書き文字識別率の向上に腐心している(実際にそういう課題があった)ような奴らばかりだった。

 

英国院留学のすすめ

上記の点をまとめると、修士過程で英国院留学をするインセンティブ・メリットは(あくまで情報系の場合だが)

  1. 授業が実践ベース
  2. 教授陣・TA陣によるサポートが手厚い
  3. 1年で修了できる!(そのかわり大変だし濃密)

という点に集約される。一番の問題は授業料が高い(年間日本円で300〜400万)ということだが、ここは奨学金なり何なりで頑張るしかない。
日本では学部を出たあと日本の院に行く学生が多いが(中国だと断然海外が多い印象)、海外院に行くということも選択肢に成り得るということを覚えておいていただきたい。

 

参考文献

[1] QS World University Rankings by Subject 2016 – Computer Science & Information Systems
http://www.topuniversities.com/university-rankings/university-subject-rankings/2016/computer-science-information-systems#sorting=rank+region=+country=+faculty=+stars=false+search=
[2] 平成28年度 授業料等の額について,京都大学
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/education-campus/tuition/jugyo.html
[3] Programme fees, University of Edinburgh
http://www.ed.ac.uk/studying/postgraduate/fees?programme_code=PTMSCAINTL1F

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Published in英国院

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